個人事業を廃業する際、多くの人がまず思い浮かべるのが「廃業届」の提出です。しかし、実際には廃業届を税務署に出すだけで、すべての手続きが完了するわけではありません。青色申告、消費税、給与関係、在庫処分、許認可、最後の確定申告など、状況によって必要な手続きは多岐にわたります。本記事では、個人事業の廃業時に必要な税務手続き、都道府県税事務所への届出、許認可の廃止、在庫・備品の処分、リース契約の整理、従業員対応、最後の確定申告までを順序立てて詳しく解説します。
個人事業をやめるときは「廃業届」だけで終わらない
個人事業を廃業する際、多くの人がまず思い浮かべるのが「廃業届」の提出です。
しかし、実際には廃業届を税務署に出すだけで、すべての手続きが完了するわけではありません。
青色申告をしていた場合、消費税の課税事業者だった場合、従業員を雇っていた場合、事務所や店舗を借りていた場合、在庫や設備が残っている場合など、状況によって必要な手続きは変わります。
また、事業をやめた年については、廃業後であっても確定申告が必要です。
廃業した年の売上、経費、在庫、固定資産、借入金、未回収の売掛金、未払いの買掛金などを整理し、最後の申告を行う必要があります。
個人事業の廃業では、「税務署への届出」「都道府県税事務所への届出」「消費税・青色申告の手続き」「従業員関係の手続き」「在庫・備品の処分」「最後の確定申告」を順番に進めることが大切です。
個人事業の廃業で最初に確認すること
個人事業を廃業すると決めたら、まず現在の事業状況を整理しましょう。
必要な手続きは、事業の内容や規模によって変わります。
たとえば、フリーランスとして一人で仕事をしていた人と、店舗を借りて従業員を雇っていた人では、廃業時に必要な作業量が大きく異なります。
最初に確認したい項目は次の通りです。
- 青色申告をしているか
- 消費税の課税事業者か
- インボイス登録をしているか
- 従業員やアルバイトを雇っているか
- 店舗や事務所を借りているか
- 在庫が残っているか
- 事業用の車両や設備があるか
- 借入金やリース契約があるか
- 売掛金や未収金が残っているか
- 買掛金や未払い費用があるか
- 許認可が必要な業種か
この整理をしないまま廃業届だけを出してしまうと、後から消費税、給与関係、在庫処分、リース解約、確定申告で慌てることになります。
廃業日は自由に決められますが、帳簿や契約、売上の締め日、店舗の退去日、在庫処分のタイミングを考えて決めると整理しやすくなります。
税務署に提出する主な書類
個人事業を廃業する際、税務署に提出する主な書類はいくつかあります。
すべての人に同じ書類が必要なわけではなく、青色申告、消費税、給与支払、インボイス登録などの状況によって変わります。
個人事業の開業・廃業等届出書
個人事業をやめるときに基本となる書類が「個人事業の開業・廃業等届出書」です。
一般的に「廃業届」と呼ばれる書類です。
この書類には、納税地、氏名、屋号、職業、廃業日、廃業の事由などを記入します。
提出先は、納税地を所轄する税務署です。
e-Taxで提出することもできますし、書面で作成して税務署へ持参または郵送することもできます。
廃業届を提出したからといって、その年の確定申告が不要になるわけではありません。
廃業した年の1月1日から廃業日までの所得については、通常どおり翌年の確定申告期間に申告する必要があります。
所得税の青色申告の取りやめ届出書
青色申告をしていた個人事業主が廃業する場合は、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」も提出します。
青色申告は、帳簿付けや申告要件を満たすことで、青色申告特別控除、純損失の繰越し、青色事業専従者給与などのメリットがある制度です。
事業をやめて青色申告を取りやめる場合には、廃業届とは別に手続きが必要です。
なお、廃業した年の確定申告で青色申告を使えるかどうかは、廃業日、帳簿、申告内容によって変わります。
青色申告をしていた人は、最後の確定申告まで帳簿をきちんと整理しておきましょう。
事業廃止届出書
消費税の課税事業者だった人や、課税事業者を選択していた人は、消費税関係の「事業廃止届出書」が必要になる場合があります。
消費税の課税事業者は、廃業した年の課税売上や仕入税額控除、固定資産の扱いなどを整理する必要があります。
また、インボイス登録をしていた場合は、適格請求書発行事業者の登録に関する手続きも確認が必要です。
消費税は、所得税の確定申告とは別に申告・納付が必要になる場合があります。
消費税の課税事業者だった人は、廃業時点で税理士や税務署に確認することをおすすめします。
給与支払事務所等の廃止届出書
従業員やアルバイトを雇って給与を支払っていた場合は、「給与支払事務所等の廃止届出書」が必要になることがあります。
給与を支払っていた事業者は、源泉所得税、年末調整、給与支払報告書、社会保険や労働保険などの手続きも関係します。
廃業時には、従業員への最終給与、源泉徴収票の交付、未払い給与、退職手続きなどを整理しましょう。
一人で事業をしていて給与支払がなかった場合は、この手続きは通常不要です。
都道府県税事務所への廃業届も確認する
個人事業の廃業では、税務署だけでなく、都道府県税事務所への届出が必要になる場合があります。
個人事業税の関係で、各都道府県に「個人事業の廃業届」や「事業廃止届」を提出するケースがあります。
名称や様式、提出期限は自治体によって異なります。
税務署への廃業届を出しただけで、都道府県税事務所への手続きまで自動的に完了するとは限りません。
店舗や事務所がある人、個人事業税の対象業種で事業をしていた人は、所在地の都道府県税事務所の案内を確認しましょう。
また、市区町村にも手続きが必要な場合があります。
特に、飲食店、美容室、リサイクルショップ、教室、クリニック、建設業、運送業など、許認可や届出が関係する業種では、税務以外の廃止届も確認が必要です。
許認可がある事業は廃止手続きも必要
個人事業でも、業種によっては行政の許認可や届出が必要です。
廃業時には、それらの廃止手続きも忘れてはいけません。
たとえば、次のような業種では注意が必要です。
- 飲食店営業許可
- 古物商許可
- 美容所・理容所の届出
- 旅館業許可
- 酒類販売業免許
- 建設業許可
- 産業廃棄物収集運搬業許可
- 介護・福祉関連の指定
- 医療・クリニック関連の届出
- 動物取扱業
- 運送業関連の許可
許認可によっては、廃止届、返納、廃業届、標識や許可証の返却が必要になる場合があります。
許認可をそのまま放置すると、更新案内、管理義務、行政からの確認が続くことがあります。
事業をやめる際は、税務署への廃業届だけでなく、営業許可や登録の廃止手続きも確認しましょう。
廃業前に整理するべきお金の項目
個人事業の廃業では、税務手続きだけでなく、お金の整理も重要です。
廃業日までに売上、経費、在庫、借入金、未収金、未払い金を整理しておかないと、最後の確定申告が複雑になります。
特に確認したい項目は次の通りです。
- 売掛金
- 未収金
- 買掛金
- 未払い経費
- 前払い費用
- 借入金
- リース契約
- クレジットカード決済の入金
- 電子マネーやQR決済の入金
- 家賃や共益費
- 水道光熱費
- 通信費
- 税金や社会保険料
- 在庫
- 固定資産
- 事業用口座の残高
- 事業用クレジットカードの未払い
廃業した後に入金される売掛金や、廃業後に支払う経費もあります。
廃業日で帳簿を止めるのではなく、事業に関係する入出金が完了するまで管理しましょう。
在庫・商品・材料の処分
小売業、飲食業、製造業、ネットショップなどでは、廃業時に在庫が残ることがあります。
在庫は帳簿上の資産であり、廃業時の確定申告にも関係します。
在庫を処分する方法には、次のようなものがあります。
- 閉店セールで売り切る
- 取引先へ返品する
- 業者へ一括買取を依頼する
- 同業者へ譲渡する
- 廃棄処分する
- 自家消費する
在庫を売却した場合は売上になります。
廃棄した場合は、廃棄の記録や証拠を残しておくと安心です。
また、事業用の商品を自分で使う場合、税務上の扱いに注意が必要です。
特に、酒類、食品、医薬品、化粧品、ブランド品、委託販売品、リース品などは、自由に処分できない場合があります。
在庫処分では、所有権、販売許可、賞味期限、品質、契約条件を確認しましょう。
事業用の備品・設備・車両をどうするか
個人事業で使っていた備品や設備も、廃業時に整理が必要です。
パソコン、プリンター、机、椅子、棚、厨房機器、美容機器、工具、車両、機械、什器、レジ、看板などは、売却、譲渡、廃棄、自家使用への切り替えなどの選択肢があります。
事業用資産を売却した場合は、売却代金を帳簿に反映する必要があります。
固定資産として減価償却していたものは、帳簿価額と売却価格の差額も確認が必要です。
また、リース契約中の機器やローンが残っている車両は、勝手に売却できません。
廃業時には、次のように分類しましょう。
- 売却するもの
- 自分で使うもの
- 廃棄するもの
- リース会社へ返却するもの
- ローン残債を確認するもの
- 原状回復で撤去するもの
- 許認可や契約上処分に注意が必要なもの
店舗や事務所を閉める場合は、原状回復工事や不用品処分も必要になることがあります。
閉店日が近づいてから慌てないよう、早めに買取業者や処分業者へ相談しておきましょう。
借入金・リース契約・ローンの整理
廃業しても、事業用の借入金やリース契約が自動的になくなるわけではありません。
個人事業主の場合、事業の借入れであっても、最終的には個人の債務として残ることがあります。
日本政策金融公庫、銀行、信用金庫、カードローン、設備ローン、車両ローン、リース契約などがある場合は、廃業前に返済計画を確認しましょう。
特に注意したいのは、リース契約です。
コピー機、POSレジ、厨房機器、エアコン、車両、電話機、防犯カメラなどは、店舗に置いてあっても所有者がリース会社である場合があります。
リース品は売却や廃棄ができません。
廃業時には、リース会社へ返却方法、残債、解約金、撤去費用を確認しましょう。
借入金の返済が難しい場合は、早めに金融機関、商工会議所、税理士、弁護士などに相談することが大切です。
従業員がいる場合の手続き
従業員やアルバイトを雇っている個人事業主が廃業する場合、労務関係の手続きも必要です。
最終給与の支払い、源泉徴収票の交付、雇用保険、社会保険、労働保険、住民税の特別徴収などを整理しなければなりません。
確認すべき項目は次の通りです。
- 従業員への閉店・廃業の説明
- 最終出勤日
- 最終給与の計算
- 未払い残業代や有給休暇
- 源泉徴収票の発行
- 雇用保険の資格喪失手続き
- 社会保険の資格喪失手続き
- 労働保険の手続き
- 住民税の特別徴収の切り替え
- 退職証明書の発行
- 離職票の手続き
個人事業主が一人で事業をしていた場合は不要な手続きですが、従業員がいる場合は税務署以外にも、年金事務所、ハローワーク、労働基準監督署、市区町村などへの対応が必要になることがあります。
閉店直前では間に合わないこともあるため、早めに専門家へ相談しましょう。
最後の確定申告でやること
個人事業を廃業しても、廃業した年の所得については確定申告が必要です。
廃業年の1月1日から廃業日までの売上と経費を集計し、通常どおり所得税の確定申告を行います。
最後の確定申告で確認したい項目は次の通りです。
- 廃業日までの売上
- 廃業後に入金された売掛金
- 廃業日までの経費
- 廃業後に支払った事業関連費用
- 在庫の処理
- 固定資産の売却・廃棄
- 減価償却費
- 借入金利息
- 家事按分
- 青色申告特別控除
- 消費税の申告
- 予定納税
- 源泉徴収された報酬
- 損失が出た場合の扱い
廃業した年も、帳簿の整理は必要です。
青色申告をしていた場合は、最後の年も帳簿や決算書をきちんと作成しましょう。
また、廃業後に売上の入金や経費の支払いが発生することがあります。
事業用口座をすぐに解約せず、入出金がすべて終わるまで管理しておくと安心です。
消費税の申告に注意する
消費税の課税事業者だった個人事業主は、廃業年の消費税申告にも注意が必要です。
廃業したからといって、その年の消費税申告が不要になるとは限りません。
課税期間中に課税売上があり、課税事業者である場合は、消費税の申告と納付が必要になることがあります。
また、事業用の固定資産を売却した場合、その売却も消費税の課税対象になる場合があります。
在庫、備品、車両、設備の処分方法によって、消費税の計算に影響が出ることがあります。
インボイス登録をしていた人は、登録の取りやめや効力の扱いも確認しましょう。
消費税は判断が難しいことが多いため、課税事業者だった人は税理士や税務署に相談することをおすすめします。
帳簿や書類は廃業後も保管する
個人事業を廃業しても、帳簿や書類をすぐに捨ててはいけません。
確定申告書、青色申告決算書、帳簿、領収書、請求書、通帳、契約書、給与関係書類、消費税関係書類などは、一定期間の保存が必要です。
廃業後に税務調査や問い合わせがある可能性もあります。
保存しておきたい主な書類は次の通りです。
- 確定申告書の控え
- 青色申告決算書
- 総勘定元帳
- 現金出納帳
- 売上帳
- 仕入帳
- 領収書
- 請求書
- 通帳
- クレジットカード明細
- 契約書
- 固定資産台帳
- 給与台帳
- 源泉徴収簿
- 消費税関係書類
- 廃業届の控え
紙の書類を処分する場合でも、保存義務があるものは残しておきましょう。
個人情報が含まれる書類を処分する場合は、シュレッダーや機密書類処理サービスを利用するのが安心です。
廃業時にやりがちなミス
個人事業の廃業では、次のようなミスがよくあります。
- 廃業届だけ出して確定申告を忘れる
- 青色申告の取りやめ手続きを忘れる
- 消費税の事業廃止届出書を確認していない
- 都道府県税事務所への届出を忘れる
- 許認可の廃止手続きをしていない
- 事業用口座を早く解約しすぎる
- 売掛金の回収を忘れる
- リース品を誤って売却する
- 在庫や備品の処分記録を残していない
- 帳簿や領収書を捨ててしまう
- 従業員の源泉徴収票を発行していない
- 消費税の申告を忘れる
- 借入金やローンの返済計画を確認していない
廃業は、事業を始めるときよりも手続きが複雑に感じることがあります。
特に、店舗型ビジネスや従業員のいる事業では、税務、労務、契約、在庫、設備、原状回復が同時に発生します。
早めにチェックリストを作り、一つずつ完了させることが大切です。
個人事業の廃業手続きの流れ
個人事業を廃業する際は、次の流れで進めると整理しやすくなります。
- 廃業日を決める
- 売上・経費・在庫・資産を整理する
- 売掛金・買掛金・借入金を確認する
- リース品・レンタル品を確認する
- 従業員がいる場合は退職手続きを進める
- 店舗や事務所の解約・原状回復を確認する
- 在庫・備品・設備を売却または処分する
- 税務署へ廃業届を提出する
- 青色申告・消費税・給与関係の届出を確認する
- 都道府県税事務所や許認可の手続きを確認する
- 廃業年の帳簿を締める
- 最後の確定申告を行う
- 帳簿や書類を保存する
この順番はあくまで目安です。
実際には、契約解約、在庫処分、従業員対応、税務手続きが同時進行になることも多いです。
ただし、廃業届を出す前に、在庫、設備、リース品、売掛金、従業員、店舗契約を整理しておくと、その後の手続きがスムーズになります。
専門家に相談した方がよいケース
個人事業の廃業は自分で進めることもできますが、状況によっては専門家に相談した方がよい場合があります。
特に、次のようなケースでは税理士、社会保険労務士、弁護士、行政書士、商工会議所などに相談することをおすすめします。
- 消費税の課税事業者である
- インボイス登録をしている
- 従業員を雇っている
- 借入金が多い
- リース契約が多い
- 店舗の原状回復費が高額になりそう
- 許認可が必要な業種である
- 在庫や固定資産が多い
- 売掛金の回収が残っている
- 赤字や損失が大きい
- 法人成りと同時に個人事業を廃業する
- 相続や事業承継が関係する
特に税金や労務の手続きは、後から修正するのが大変なことがあります。
廃業前に一度相談しておくことで、不要な税負担や手続き漏れを防ぎやすくなります。
まとめ|個人事業の廃業は届出・在庫整理・最後の確定申告までセットで考える
個人事業を廃業する際は、税務署へ廃業届を提出するだけで終わりではありません。
青色申告をしていた場合は青色申告の取りやめ、消費税の課税事業者だった場合は消費税関係の届出、給与を支払っていた場合は給与支払事務所の廃止など、状況に応じた手続きが必要です。
また、都道府県税事務所への届出、許認可の廃止、従業員対応、リース契約、店舗の原状回復、在庫や備品の処分も確認しなければなりません。
廃業した年については、売上、経費、在庫、固定資産、売掛金、未払い費用を整理し、最後の確定申告を行います。
事業をやめた後も、帳簿や領収書、契約書、申告書類は一定期間保存しておく必要があります。
個人事業の廃業で失敗しないためには、廃業日を決めた段階で、税務手続き、契約整理、在庫・備品処分、確定申告までを一つの流れとして考えることが大切です。
不安がある場合は、税務署や自治体、税理士、社会保険労務士、行政書士などに早めに相談し、手続き漏れのない形で事業を終了させましょう。
廃業届を出して安心するオーナーが多いですが、それは『始まり』に過ぎません
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